受験と部活
｢迷い｣と｢決断｣
高校三年生の春
サッカー部に所属していた僕は
春の選手権大会で引退した。
僕の高校では夏の選手権は次の代に譲り、
受験勉強に専念するため春の選手権大会で引退するのが伝統だった。
でも僕はなんとなくやり切れない気持ちになった。
本当にこれで終わりでいいのかって。
正直、高校に入ってからサッカーと正面から
向き合えていなかった。
練習には行ったり行かなかったりで、
何か言い訳を探してはサッカーから逃げていた。
そして1番心に引っかかっていたことがあった。
それは最後の試合前のウォーミングアップで
少し手の抜いたプレーをしたときのことだった。
そのときにコーチからこう怒鳴られた。
｢お前そんなプレーしてるからこの2年間上手くならんかったんだろ｣
その通りだった。
僕は中高一貫校に通っていて、中学から高校で
メンバーはほとんど変わらない。
中学のときは先輩たちの試合で中心メンバーとして
活躍していたから、高校に入ってくる時も期待されていた。
でも高校に入ってからの僕はサボりがちで
周りがどんどん上手くなるなか、
僕は高校入学当初から何ひとつ上手くならなかった。
僕はこのまま引退していいのか。
何一つ得ることの無いまま引退したら
この先ずっと後悔するのじゃないか。
2年間必死に頑張ってきたチームメイトが
号泣する声がする。
そのなか僕は一人そんなことを考えながら
グラウンドを見つめ立ち尽くしていた。
そんなとき後輩のKくんに
夏まで部活を続けないかと誘われた。
僕はどうするか考えた。
高校三年生にとって夏は受験の正念場。
もし部活を続けたとすると、ほかの受験生が
勉強をしているなか部活をすることになる。
そうなるとほかの受験生と大きく差がつく。
僕はかなり迷った。
学校の友達たちがみんな勉強している中
自分だけ部活をしていて大丈夫なのか。
僕は引退してから1週間考えた。
そして僕は夏の選手権大会まで部活をすると決断した。
続けることにした3年生は僕一人で
他の部活の3年生たちもみんな引退して、
部活を続けているのは学年で僕だけになった。
周りからは色々と言われたけど
僕はこの決断が正しいと確信していた。
こんな中途半端なまま部活を引退するより、
自分の納得できるまでやり切るのが大事だと思った。
僕は2年間部活をサボったことを後悔した。
後輩たちにはそんな後悔はしてほしくなかった。
だから僕は毎日の練習のひとつひとつの
プレーに真剣に取り組んで、少しでも後輩たちの
良い刺激になれるように頑張った。
何か一つのことに打ち込むのは本当にいい。
もっと上手くなりたいという思いを胸に
炎天下のグラウンドで必死に汗を流して
ボールを追いかけたあの時間は今でも鮮明に
記憶に刻まれている。
そして夏の選手権本番。
前半は0ｰ0でハーフタイムに入った。
けど僕のプレーは少しパッとしないものだった。
そんなときまたコーチから怒鳴られた。
｢おまえ最後の大会がそんなんでいいんか？｣
僕はハッとした。
そうだ、僕は最後の大会だからって
緊張してプレーのひとつひとつに
どこか躊躇しているところがあった。
この夏で学んだのはこんなことじゃない。
後半の僕は誰よりも必死にボールを追いかけた。
ディフェンスのときはがむしゃらにボールを奪い、
オフェンスのときは躊躇うことなく前に飛び出し、
そして誰よりも声を張り上げてチームを鼓舞した。
試合は0ｰ3で負けている状況。
チームは苦しい状況だった。
それでも僕は声を出し続け、全力でボールを追いかけた。
そして終了のホイッスル。
僕の夏は終わった。
グラウンドに立ち尽くした。
時間が止まったように感じた。
その瞬間｢先輩！｣と呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとKくんがこっちに向かって歩いてきていた。
Kくんと僕はそこで握手を交わした。
言葉はなかったけど、その握手で全て伝わった。
そして僕はお世話になったコーチに挨拶をした。
滅多に褒めることのなかったコーチはこう言った。
｢後半のプレーほんとに良かったぞ。｣
それを聞いた僕は、この夏自分がやってきたことは
間違っていなかったと確信した。
負けたのは悔しかったけど、後悔はなかった。
この夏、自分は本当に成長した。
春よりも何倍も上手くなった。
そして何よりも精神的にとても成長できた。
自分が納得できるまでやって本当によかった。
今僕は浪人をしている。
もしあのとき部活を続けず引退して
夏も勉強に専念していたら大学生になっていたかもしれない。
でも僕は部活を続けると決断したことは
正しかったと思っている。
だから後悔はしていないし、
サッカーに打ち込んだあの夏は一生誇れる思い出になった。
どれだけ迷ったとしても
それが自分で自信を持ってした決断なら
後悔はしないことを僕は学んだ。
そう、だからこれからの人生で迷うことがあっても
最後は自分が自信をもてる決断をしようと思う。
きっとそれが何十年経っても後悔しない
最高の決断になる。
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